「黒い河」という映画がDVDで出ているのを知り、早速取り寄せて
見たのですが、うなりました。
有馬稲子さん主演の松竹映画(にんじんくらぶ企画)で、監督が小林正樹監督。
チンピラヤクザ役が新人で出たばかりの仲代達矢さんです。
当時映画館で観た時、頭を殴られたような衝撃だったのですが、
話を憶えてもいず、また敗戦後日本の荒廃ぶりやGHQ、
左翼運動家めく朝鮮の男、など時代背景など全く理解しないまま
ただ、映画が叩きつけてくる熱気に子供ながら圧倒されたのでしょう。
1957年度の製作なら、私が観たのは中学1,2年生の時です。
戦後12年目。
解らぬながら、食い入るように観た記憶。覚えているのはタイトルの英字紙の
切り抜きコラージュと、ラストシーンで有馬さんが狂ったように駆け去って行くところ。
Wikiの粗筋を拝借すれば、
>ひと癖もふた癖もある住人が住み着く貧乏長屋「月光荘」を舞台に、ここに引っ越してきた大学生の西田と、彼が思いを寄せるウェイトレスの静子、チンピラのリーダー・人斬りジョーたちの人間模様を描く。
配役の羅列だけでも往時の映画を知る人は、その豪華さに息を呑むでしょう。
月光荘住民 永井智雄(岡田) 淡路恵子(妻康子) 佐野浅夫(坂崎) 宮口精二(金賢順) 三戸部スエ(妻美秀) 東野英治郎(栗原) 高橋とよ(栗原の妻) 富田仲次郎(山口) 春日千里(妻綾子) 小笠原章二郎(パアの夫) 菅井きん(パアのかあちゃん) 大杉莞児(安井) 賀原夏子(安井の女房) 山田五十鈴(家主幹子) 桂木洋子(ジョーの情婦・幸子) 清水将夫(黒木)
有馬稲子さんが恋する学生に、渡辺文雄さん。
中学生だった私は、ただ有馬稲子さんのヒロイン像と、仲代さんのギラギラした鮮烈さしか
目に入らなかったのですが、今見ると山田五十鈴さんの並外れた上手さ、宮口精二さんや
東野英治郎さん他、新劇畑の人たちの力量に唸らされます。
そして役者さんたちの口跡の良さ。昨今のドラマのようにセリフが聞き取れないなどということはなく、
明瞭なのです。プロの滑舌とエロキューションです。
そして、戦後20年間ほどでしたでしょうか、ごく一般の女性たちはまだ美しい日本語を
保っていました。普通に敬語を使い、親にも敬語を用いていました。
「お父様、召し上がりまして?」など。
有馬さん扮する清楚な女性が仲代さん演じるヤクザにレイプされ身を持ち崩し、メークが
濃くなるにつれ、言葉も崩れていく・・・・それでも、昨今の女性たちの
ぞんざいな言葉に比べれば、まともなのです。
今の女性たちは、昔のずべ公より汚い言葉を使っています。
言霊というのは、それを発する人の性根にまで影響を与えます。
映画は映画として、その圧倒的な熱気に打ちのめされながら、私は現代の日本女性が
かつての、パンパンのような言葉遣いをしていることを再認識、どこまで
この日本は敗戦により壊されたのか、と呆然としたのでした。
原作は富島健夫さん。脚本が松山善三さんです。
印象的な音楽が木下忠司さん。
映画館で観た当時は解らなかったのですが、退廃的なトーンの作品ですが
純愛を描いています。
あと改めて思ったのが、つまらぬ映画は超大型画面から映像が飛び出そうと、何の感興も湧かず、
モノクロスタンダード映画をさらに、DVDの画面で縮小して観ても、映画の中にすっぽり
入り込み、テレビのフレームの存在すら忘れて見入るのだなあ、と。
優れた映画はもう一つ別の人生をつかの間体験したごとき、実感があります。
誤変換他、後ほど