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Channel: 井沢満ブログ
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妖艶な男

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かつて、男に対して「妖艶な」という形容詞を使ったことがない。
市川雷蔵さん主演の時代劇を見るまでは。
(芸能人をさん付けするのは、軽蔑する向きもあるが私にとっては、
過去のスターさんではあっても、同業エリアにいらした方なので)

このところ、大映の昔の映画を見ていてたとえば自らが女形を
やっていらした衣川貞之助監督などの作品は、女優さんに自ら
動きをつけていらっしゃるので、身体の傾げ方、しごきを
口にくわえる所作、大層勉強になる。

衣笠貞之助監督は新派のご出身だが、後に映画の女形をやられていた。
1900年台の初期は、映画も女形を使っていた。

新派の出身なので画面は、さながら舞台の構図で白梅をはらはらと散らし、
空には朧月。

一連の大映映画の数本が市川雷蔵さん主演作品で、昨夜見たのが
「眠狂四郎 女妖剣」。いまだファンが増え続けていると聞くが、なるほど、
艶やかに美しい。それと声質の艶(なまめ)かしさ、口跡(こうせき)の良さ。

口跡ももはや絶滅語に近いのか? 主に歌舞伎役者の台詞回しの闊達さを
その声質を含めていい、昔は姿に加えて口跡の良さが役者には
要求された。

一度、新宿で建物の中に入って行かれる雷蔵さま(とこう呼びたくなる)を
見かけたが、こう言ってはなんだが、とりわけ美貌でもなくお背が高い
わけでもなく、照明映え、なかんずく化粧映えのするお顔立ちなのだった。
もし、俳優ではなく人波の中にいらしたら紛れてしまうほど。
それがひとたび画面に出ると艷やかな花に化身する。

亡き香港スターレスリー・チャン氏もそのたぐいで、楽屋でお目にかかった時は
ステージやスクリーンの彼の輝きに比べれば、もはや別人といってもいいほど
普通の人だった。

もっとも、雷蔵さまが三島由紀夫の金閣寺を市川崑監督で映画化した時は、
時代劇の時の目張りも、ドーランもなくほぼすっぴんでのご出演でいらしたが、
唇が大層美しい形をしていることに、今回気づいた。
観察眼も少しだけ、昔に比べて進歩したようだ。

雷蔵様は病を得て、37歳でこの世を美しいまま去られた。
短期間の役者人生であったのに、夥しい数の作品を残して。

「眠狂四郎・女妖剣」には藤村志保さんが出ていらして、一度樹木希林さんの
邸宅でお目にかかったことがあり、拙宅まで自ら運転の車で送って頂いたことがある。和服での運転が珍しかった。希林さんも和服で、随分キレのいい運転を
なさる方だけれど。

他に、仕事でご一緒してご自宅に遊びに行ったこともある根岸明美さんも
出演していて、もしお二人の出演を知っていたら雷蔵さまについて
いろいろ伺っておくのだった。

そう言えば日本でも「妖艶な」と表現したい俳優さんは雷蔵様お一人だが、
海外には、妖艶なという言葉がふさわしい男優はいない。
そもそも、妖艶というのはひょっとしたら、日本独自の感性か?
海外には女優さんでもそう表現したい人はいない。

当分は雷蔵さま追っかけで、DVDを回すことになりそうな。

 


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