昨日、「外科医 有森冴子」のイベント打ち合わせで、日比谷の帝国ホテルへ
行って来た。
このところ、市川雷蔵さんの「眠狂四郎」にどっぷりつかっていたので、
黒檀色の着物に、白い長襦袢。長襦袢の白は素人には、とりあえず
ご法度のようだが、承知で着るぶんには構わないだろう。
白足袋に白の草履、とモノクロが新鮮だった・・・・と
思っているのは本人だけで、傍から見たら法事帰りの
坊さんだと思われたかもしれない。眠狂四郎なんだってば。
しかしそれにしても、時代劇の衣装さんというのは着付けが凄いと聞くが、
雷蔵さんが激しい立ち回りをしても、着崩れなし。カメラが止まった時に、
直しはしているにしても、それにしても激しい動きに崩れない。
動きやすく、着ていて楽で、しかも崩れない、と東映京都を経験した
女優さんに聞いた。狂四郎は大映京都の仕事だが、昔の職人さんは
凄い。(といって、今の状態は私は知らない)
雷蔵さんが歩みを進めるたびに、裾が翻り裏地が見えるのだが、
あれもおそらく特殊な工夫がしてあると思う。
普通に歩いても、そうそう裾がめくれるものではない。
私が着た黒檀色の着物は、裏地に白い雪吹雪が細かく散っていて、
めくれて欲しいのだが、突風が吹いてもめくれやしない。
もっとも、めくれたところで私のなど艶めかしくもなんともないのだが。
そしてふと、思ったのだが「艶めかしい」という言葉が使える男は
雷蔵さん以外にいないのではないか、世界にも、だ。
「艶めかしい」という感性も日本ならではで、海外にはとりわけいなさそうだ。
それからすると、日本映画界の至宝であったのだと思う。
空前絶後の男優さんで、だからこそいまだにファンを
獲得し続けているのであろう。
雷蔵さんが妖艶なのは、眠狂四郎においてのみであり、他は
そうでもない。よほど、馴染む役柄だったのだろう。
打ち合わせには、「有森」の第1回めを演出された石橋冠さんも
いらした。
私は和服で飲食のある席に赴くときは、膝に広げるための、
手ぬぐい持参なのだが、さすが帝国ホテルで、黙っていても
広いナプキンが「お膝に」と、すっと出て来た。
帰路、石橋冠さんの初監督の映画が上映中なので日本橋の
映画館に行ったのだが、あいにく上映は2時間後。
同じビルに映画館が複数入っているところである。
時間割を見たら、「スターウォーズ」がちょうど始まる時間だったので、
せっかく来たのだし、3Dを見たこともないのでこの際、と
思って、チケットを購入しようとするのだが券売機の液晶画面に
四苦八苦。
モギリ、という言葉も死語なのだろうが要するにチケットの半券を切って
戻してくれる人なのだが。
このモギリのお嬢さんに「総入れ替えなの?」やら、「途中で入れないの?」やらを聞いたのだが、これが通じないのだ。
他の映画館は知らないが、ここは最初から観ないと入れて貰えない。
昔は、途中から見るなど当たり前で、2度目に前半を見て、ああこういう話だったのだな、とやっとつながるのである。
休憩時間に冒頭の話を想像したりして、これが案外脚本の勉強に
なったのかもしれない。
初めて知ったのだが、3D観賞用のメガネはレンタルかと思い込んで
いたのだが、購入して次にも使えるのであった。
予告編がすでに、3Dでビルとビルの間に張り渡したロープを
綱渡りする映画。高さ感がリアルで、高所恐怖症の私はすくんだ。
飛び出す映画(大昔にあった)というイメージだったが、
それより背景の距離感がリアルなことに感心した。
聴覚が私は過敏なので、大音響の音楽に慣れるまで辟易としたが。
話はつまらなかった。ゲームの中の人物が動きまわっている感じ、
人間の血肉が通っていないのだ。ゲーム感覚の映画だからこそ、
受けもするのだろうが、アナログ時代の私には人物がアクションをして、
メカニックな戦闘がいかに激しかろうと、それがどうした、という感じ。
早く終わらないかなあ、と思っているうち敵味方に分かれた
父と息子の再会の話になって、
やっと少し面白くなった。
おそらくスターウォーズを最初から見ている人たちにしか
わからない約束事もあり、今頃のこのこ見ている私には、
ついて行けない部分もあるのだろう。
液晶パネルの券売機では、座席も自分で選ばねばならず適当に
一番良さそうな席を選んだら、本当に特等席(これも死語なの?)で
両隣がパネルで仕切られていて、個室の感じ。
暗くなってから入ったこともあり、それを見た瞬間恋人シートかと
思い、暗がりでいやらしいことをする席なのかしらん・・・・と、
どこまでもアナログ時代の私なのであった。昔は喫茶店に
そういうの、なかったか? 「純喫茶」というのがあったから
「不純喫茶」というのもあったのだろうか。
そういえば、不純異性交遊などという言葉もなかったか?
しかし「個室」ふう空間が居心地いいのは事実で、これは病みつきになりそう、
と思うのはどうやら私ばかり、特別席の一列誰も座っていず、私だけ
中央にぽつんといた。
もともと映画館が好きではなく、DVD専門なのだが、
映画館の広いスクリーンと、音響で見たほうが・・・・・と
言われる。
いえいえ、悪いがとりあえずプロの端くれ、DVDで
見ても、脳内で画面も音響も拡大して見ている。
今日以降はそれに奥行きのある立体画像、という脳内変換で
見ることになろうかと思う。
しかし映画の良し悪し、感動はスクリーンの大きさも音響も
色彩も本質的に関係ないのだ、と今日で再認識した。
スター・ウォーズはスペクタクルな見世物なのであり、ドラマはない。
大人は食い足りないのではないかなあ。と言って、そういう映画も
むろん、あっていい。
帰りに、干物専門の店によって夕食を摂った。伊勢海老を選んだのだが、
失敗。のどくろや、あじなどのように干物ならではの、味わいが
出る魚はあるが、伊勢海老は単に伊勢海老のミイラである。
身はスカスカに乾燥して縮こまっているし、食べるところは
極端に少なく、ミイラの分際で高価なのだ。
まずいもの食べさせられた時は、心が縮かむ。寒風の中、
身をすくめながら帰宅したのであった。
お風呂で身体を温めてから、DVDで「鳳城の花嫁」を見た。
東映時代劇、日本初のシネマスコープ作品である。
子供の頃見たので、1シーンぐらいは覚えているかと
思ったが、見事に忘れていた。
・・・・・・本当に見たのだろうか? 初のシネスコだというので
賑々しく話題になっていたので、見た気になっていたのかもしれない。
主演が大友柳太朗さんで、この当時の流行であったのか、
つけまつげをなさっていた。雷蔵さんの「桃太郎侍」も
つけまつげで、なんだかなあ・・・・・立ち回りする侍が、
まつげそよそよ、目がぱっちりは勘弁よ。
「眠狂四郎」がつけまつげでなく、本当によかった。
大友柳太朗さんとは、後にテレビドラマでご一緒した。
ご本人にお会いしたことはなかったが、スタッフに長電話をする
方だと聞き及んでいたので、かかって来るかなあと、
どこかで待っているような心持ちでいたのだが、
そのうち自ら命を断たれ、言葉を失くした。
出ていただいたドラマ「幸せの国。青い鳥ぱたぱた?」(NHK)は
国内外で賞を得て、ドラマ好きの間では伝説的作品となっている。
それを、大友さんはご存知であったろうか。
主演の田中裕子さんがまだ二十代だったろうか、海外で
主演女優賞を得た。