高倉健さんが去られたようだ。
健さん主演で映画のお話を昔頂いたことがあったが、
若気の至りで、あるつまらない理由からご辞退したことがある。
それからずいぶん歳月が流れ今度は、健さんに
歌わせたいので、作詞をしてくれないかと。
これは二つ返事でお受けした。
「ロシアホテル」というタイトルで、歌詞にチャイコフスキーという
一人称を織り込むような、我ながら面白い作風の詞が出来た。
すると健さんから、「井沢満さんの詞が素晴らしい」とプロデューサー宛てに
達筆の書簡が届き、私も見せてもらった。
曲はヒット曲が幾つもある大御所に頼んだということで
楽しみにしていたのだが、仕上がった曲をテープで聴いて
絶句した。
詞とはまったく違う世界。
詞の世界観が消え果てていた。
作詞の世界では素人に近い私であるし、我慢して黙っていたのだが、
案の定健さんから、断って来た。
映画と歌と、ご縁が生まれかけて消えたお方である。
ご冥福をお祈りします。