スエーデンのイングマール・ベルイマン監督の「野いちご」を
見ていたら途中で切れてしまったので、ルキノ・ヴィスコンティ監督
「家族の肖像」を見た。
バート・ランカスター演じる老教授が住むローマ郊外にある
豪奢な邸宅から一歩も出ない映画だが、2時間飽きなかった。
屋内撮影に留めたのは、ヴィスコンティ監督の病気によるもので、
移動が最小限の脚本にしたのだそうだ。
教授の家に押し寄せる複雑な人間関係のそれぞれが、いつしか
教授の家族のようになって行く、という昨今多くなった
疑似家族を描いた作品である。
日本で最初に擬似家族を描いたのは、国内外で複数の賞を得た
「青い鳥ぱたぱた?」という私がNHKに書いた単発作品ではなかったかと
思うのだが・・・・(私が知る限りは、であり先行作品があるかもしれない)
ヴィスコンティは私よりかなり早くやっていたわけだ。
巨匠を引き合いに比べるのは傲慢だが、テーマに関しての時系列に
過ぎない。
ヴィスコンティは両性愛bisexualの人で、アラン・ドロンやヘルムート・バーガーと恋人関係にあったと言われている。
「家族の肖像」に出ているヘルムート・バーガーはヴィスコンティ亡き後「俺はヴィスコンティの未亡人だ」と言った。
わたくしは杉田水脈議員発言に関しては、物を言う気にもなれず口をつぐんで
来たけれど、ヴィスコンティが子供を作らなかったから「非生産」であったのか、と
それは問うておきたい。いささか品性と教養を欠いてはいらっしゃらないか。
空海の相手も常に男性で子を生してはいぬが、どれほど莫大な精神的
遺産を日本人に遺したか。敢えて実利面を言うなら、ヴィスコンティ監督が
海外からイタリアにどれほどのリラと名誉をもたらしたか。
同性愛者として子を持たなかった空海の存在でどれほどの寺社が潤っているか、
こんなことバカバカしくて書きたくもないけれど、相手の価値基準が
卑しい算盤勘定レベルならやむをえぬ。
杉田議員の文章の、語彙を含めて感性の貧しいこと。
一度、執筆依頼を受けて書いた「正論」にこちらから申し出て
批判文を書こうかと一瞬思ったくらいに、不快だった。
政治家としての批判ではない、人としての心ない不用意な発言に
対してである。
これを書けば、国内外からどういう批判を受け、敵対勢力から
どう悪用されるか、また傷つく人たちがどれほどいるか、という想像力もおありではなかったのか。教養とは畢竟、相手の痛みに対して想像力が持てることでもある。
日本国内の保守対アンチという構造を知らぬ海外で杉田議員の発言が流されれば
単に意識の低い差別主義の政治家、という評価であろう。
せっかく、ご自身が国連に乗り込んでの立派な活動へ自ら足引っ張りを
した形でもある。性的レイシストと見なされた人物が慰安婦に対して
何か言ったところで、聞く耳持たれるものか。
論争している双方のレベルの低さ、同じ土俵に上がりたくもなし。
左翼の人々の「手段」としての杉田議員貶めも下品である。与さない。
同時にいわゆる保守の方々の杉田議員擁護も稚拙。擁護による文章美化の度が過ぎる。
文章は文章であり、言葉として提示されたまま受け取られるのは
当たり前のこと。誤解であると言うなら、誤解を与える文章を
書いた者の責任に帰することである。
「なぜ男と女、二つの性だけではいけないのでしょうか」というのは、
意見ではない、無知ゆえのヘイトであろう。正確な文章をもし書くなら「性的マイノリティの人々を、なぜ政治的意図で支援せねばならぬのか」であろう。
杉田氏の発言は、万葉の男性間における相聞歌に始まる戦前までの日本文化をも
貶める。相聞歌で解らなければ西鶴でもよい。「男色大鑑」は
無論のこと、「好色一代男」の世之介が相手にしたのは女性
ばかりではない。武田信玄がどうの、と並べ始めると
際限がないので止めておく。愛国保守の鑑、三島由紀夫が
bisexualであったことすらご存じないか。優れた芸術家が
多くは男女両性をその裡に持つ。人々が美的感性に秀でるゲイたちの絵画や音楽、ファッションを含めたアートにより、どれだけ恩恵を受けたか。
それを「非生産」と言い捨てる精神の粗野、下品(げぼん)。
わたくしはいわゆる保守派の非難「一部を抜き取って」揚げ足など、取ってはいぬ、
物書きプロの端くれである。意図的誤読など、してはいない。
かといってLGBTを政争の道具として国会議事堂前に押しかける人々にも辟易、
それゆえわたくしは「どっちも、どっち」と言っている。
杉田議員の慰安婦に対する活動など、その政治的行動に関しては刮目している。
政治家に教養と品性、文化を求めるのが過剰なのか。
人としての佇まいは受け入れがたいが、その政治家としての行動には
今後も期待したい。
保守政治家の中では、大阪維新の足立康史議員のコメントが冷静で
公平、まっとうであろうと思われる。
http://agora-web.jp/archives/2033821.html
誤変換他、後ほど。