桜田五輪担当大臣の、池江璃花子選手への言葉が自民党内でも批判されていて、その批判内容が「語彙がない」で、やっと政界でも
「語彙」の一語が使われ始めたか、とそれはいい傾向だと思う。
一言を切り取られて報道されてしまい、真意が歪められるのを
避けるためのノウハウはさほど難しいことではない。
まず今この時、この場でこの言葉を発したらどういうふうに
受け取られるか、その想像力を持つのが第一歩。
まして立場から必ず受けることが想定される
質問なのだから、決定的に準備不足。いや、不足ではなく
身構えがゼロ。
おおやけに発する言葉の重大さを心得ないと。
言葉というものをひょっとして、軽く考えてはいらっしゃらないか。
日本語は、多くの人が勘違いしているかと思うが、
誰でも使えるというものではない。日本人です、だから
生まれたときから日本語は知っています、というような
安易なものではない。日々鍛錬しないと
それは使いこなせない。政治家はまして、言葉が
武器なのだ。
二歩目が、想定される質問に対して予め用心深く推敲した
文言を用意しておくこと。上級になれば、
そこにジョークや報道の見出しになりそうな
キャッチーな言葉を織り込む。
ジョークはその場の空気が左右するので、何種類か
用意しておき、場合によってはカットすればよい。
その時の天候や気温、出来事を入れたければ
( )にして仮として入れておいて、差し替えたり言い換えたり
できる当意即妙の、一見その場のアドリブに聞こえる
用意周到の原稿を。これが最上級の準備かもしれない。
桜田大臣は、サイバーセキュリティも兼務していて
しかしパソコンを知らない。その事自体は責められる
ほどではないが(褒めも出来ないが)、当然初期に来るであろう質問は
容易に予測できるのだから、なぜそれに対して
用心をなさっていなかったのだろうと、そこは
緩すぎであろう。事前にサイバー犯罪に関して専門家を
呼んでレクチャを受け、そこからパソコンを自ら
使わぬ者としての、最適な言葉を拾い上げれば良い。
有能な官僚相手に、想定問答ぐらいやっておくべきだった。
失言したらしたで、当然釈明を要求されるわけだから、
それに対する答えも推敲して備えているのが
よい。あの程度の短い詫びをメモを見て読み上げるようでは
こころもとない。甘い。再び言質を取られぬようにという用心が
痛々しくもあった。だが、あの短い文言は暗記して、
カメラが捉えた時、視線が国民の目を真っ直ぐ見ている形に
しなくては。言葉とともに「見せ方」も大事である。
その場にいるのは、野党や記者たちばかりではない。
ある意味それより大事なのは、テレビカメラの向こうに
いる国民である。その国民の存在を意識されたい。
ピンチをチャンスに変えるための文言というものはある。
おそらく実直さと、運とでここまで上り詰めたお方。人がよさそうなだけに、
思わず黒子として、予定原稿を予め書いてあげたくなった。
いずれにしても、言葉で身を鎧えない人に安全管理はできない。
かといって辞任するほど悪質な失言でもないとは思うが、
世間は発した言葉の全文を読んでその文脈から真意を
探ってくれるほど親切ではない。
この世は妬み嫉み僻み、悪意敵意で出来ていて
ましてある頂点に達した人への風あたりは強い。
男社会の嫉妬は凄まじいのだ。
相手が野党なら、もっとである。
物好きに桜田大臣の言葉を推敲してみる。
「びっくりした。病気のことなので、早く治療に専念していただいて、一日も早く元気な姿になって戻ってもらいたいというのが、私の率直な気持ちだ」
⇒驚き、また胸が痛んだ。あの年齢で受け止めるには過酷過ぎる現実だと、我が娘のことを考えなおさら、つらい思いをした(あるいは、もし自分にあの年頃の娘がいたら、とつらかった)
記者:競泳の中でも有力な選手だ。
桜田五輪担当相「金メダル候補で、日本が本当に期待している選手だから、本当にがっかりしている。早く治療に専念していただいて、また元気な姿を見たい」
⇒「今は選手云々という肩書はむしろ外して、病を癒やすことにどうぞ専念していただきたい」
記者:池江選手にエールを送るとしたら?
桜田五輪担当相「とにかく治療を最優先して、元気な姿を見たい。またがんばっている姿を期待している」 ⇒「病の重圧に耐えている18歳にエールはかえって酷だと思うので、慎みたい。敢えて、今は五輪のことは忘れ治療に専念をと申し上げたい。メダルよりあなたの命が大切だ」
思いつくままで満点推敲ではないが、これだと少々一部を切り取られて報道されても「敵」に付け入られる余地はない。
辞任しないという表明も、言葉が拙い。
「職務を全力で全うするつもりだ。今までの分も挽回できるように、一生懸命頑張りたい」 ⇒「皆様ご承知のように、思いはあっても口下手で伝わらず、それを恥じている。頂いたご叱責を胸にしっかり刻み、与えられた職責を全うすることで責任を果たさせて頂きたい」