いきなり「神秘学」関連の本が送られてきて、誰だろうと
いぶかしんだら、中学から大学を出て間もなく
まで、親しい付き合いのあった友人だった。
神秘、の文字が一瞬意外だったが、
しかし当時の私達の会話を思い出せば
そう驚くほどのことでもなかった。
「人は何のために生まれ、何のために生きるか」と
いうごとき会話が彼との間には交わされていて、
そういう形而上の問題への水先案内人が
私だったのだそうだ。
彼の精神世界へ向けて歩むその発端は
私が紹介したヘルマン・ヘッセであり、
断食に関する本であったのだそうだ。
贈呈本の記述にあったフリードリヒ・ニーチェや、
コリン・ウィルソンは私が薦めたのか、たまたまその時期、
同時に読んでいたのか記憶にない。三島由紀夫は、たまたま2人の
嗜好が重なったのだと思う。三島から受け取ったものは、
それぞれ異なっていたと思うのだが、豊穣な言語に
眩惑されたことは共通だったようだ。
私は彼のその後の人生に、多分何らかの必然で
小さな指針を提示したのだと思うが、もう1人
やはり大学時代から久々に再会を果たした
友がいて、こちらは日本の経済を
動かすごときポジションにいた。
青春期を共有した友のうち、1人は形而上の世界に翔んで行き、1人は
この上ない即物的な世界の住人となり、そのことを
興味深いことに思う。