美的感受性など、人それぞれなのであくまでも、私という
一人の主観でしかないけれど、今回白紙となったザハ案が
最初から好きではなかった。
なんでかなあ、と改めて考えてみるとどうも私、
実用性から遠ざかるほど形は醜くなると思い込んでいるようだ。
過剰な装飾性も得手ではない。
日本人の美意識というものは、装飾を削いで削いで、
単純に純化してゆくことで、かえってスケールを得る、と
いうごときことで、それが能舞台であったり、
床の間であったり、枯山水であったりすると思うのだが。
と書きつつザハ案が好きになれないもう一つの理由が解った。
自然との対立物なのである、思考が。
借景を取り入れながら、雪見障子をしつらえる日本の感性とは
真逆。「自然は征服するもの」として、対立物としての
堅牢性が驕っていて、私は好きにならないのだと思う。
木と紙で出来た日本の家屋ははかないが、しかし
自然とともにある柔軟性で、延々と保つ。
焼き討ちも想定しないので、木と紙を使い続けてきた
日本人の感性がどうも、ザハ案を受け入れなかったようだ。
あの界隈を実際に知っているので、新スタジアムは私には
異物としか感じなかった。自己主張が強過ぎて、あれは
人間を包み込まない。「我」の強さを日本人は嫌う。
自然に対しても景観に対しても、慎ましさを好む。
新案は、人間重視で周辺の景観に溶け込む簡素な形を
望む。
ザハさんによるデザインが、最も似合うのは砂漠だと気づいた。
砂漠なら、まことに座りがよい。
しかし、ここは緑もやわらかく潤った日本である。
優しい穏やかな建物を期待する。
追記
私は知らなかったのだが、コメント欄に寄せられたご意見によれば
旧競技場のメインスタンドには、風神雷神がおわしたとの由。
ならば、なおさらのこと明治神宮も指呼の間にあり、日本の風土に
馴染むものでありたい。