ひつまぶしを食べたくなって、出かけた。ひつまぶしに、オクラとトロロの
ネバネバ2人組。
帰り道、旧いしもた屋の玄関先にオレンジの炎が燃え立つように
咲いていたのは彼岸花。
秋に巡り会いたいものに、虫の音、赤とんぼ、彼岸花がある。
虫の音は大通りの僅かな草むらに幽かに聴き、赤とんぼは
最初から諦め。しかし思いもうけず出会った彼岸花。
近づいて眺めたが、しかし彼岸花は紅(くれない)であらまほしい。
一昨日は、12月4日に出す小説の件で出版社に出かけた。
初めてお付き合い頂く版元さんなのだが、目白通りに面した社屋の向かい側に
「東京の伊勢神宮」と大きく表示されていて、お約束の刻限まで
だいぶ間があったので、お参りさせていただこうと通りを渡ったのだが、
神社まで参道を歩くと、延々とありそうでそこまでの時間のゆとりはないので
断念した。
小説は内輪ではすこぶる好評なので、思い切って打ち明ければ
実は五日間で書いた。
これで、出来が悪かったら態度の悪い作家として顔を伏せていなければ
ならぬところ。
筆は速い。それがあるので、つい締め切りギリギリまで遊んでしまう。
このところ悪癖からやや脱しつつあったのだが、今回またぶり返した。
気が付くと、締切日当日にまだ半分。お願いして2日間延ばして頂いて、
結局すっ飛ばして5日間の執筆時間。
初めて小説を出した時がやはり5日間だった。
その時はテレビ小説のノベライズだったので、脚本に時間が取られ、
小説にはその時間しか取れなかった。
小説が出版されてからも、長いこと読まずにいた。
5日間ですっ飛ばした小説がいかなる出来なのか、こわかったのだ。
すると、その小説の一節が高校の入試問題に出た。
へえ・・・・そんなに、酷くなかったんだ・・・・・と、おずおずと読んでみたら、
傑作でもないが、レベル以下でもなかった。
というごとき「成功体験」があるので、ついつい怠けるのである。
今は校正に集中している。すっ飛ばした分、単純ミスが多いし、
文章が荒い箇所があるので、それは丹念にやり直している。
執筆時間の倍近く、時間をかけて磨く。
出版社には大島を着て行った。
そう出版関連の知人に言ったら「もったいない、出版屋なんて
皆汚い格好で、和服の良さなんてわからない連中なんですから」
と、言われたが見せたくて着たわけではなく、自分のためである。
着物は回数着るほど、肌に馴染む。回数が勝負なのだが、
心がけないと1年に1回袖を通すのがやっと。
下手したら和服を着ない年もある。
大島紬の着流しに、帽子をかぶって出かけたのだが開口一番、
出版社の方に褒めて頂いたので、出版関係の人たちが
全員着物音痴というわけでもないらしい。
私が着物を面倒でも着て外出するのは、絶滅種になりつつある
男の着物の宣伝のつもりもある。
和服で仕事できる職種も結構あるので着て欲しいのである。
と偉そうな事を言う割に、着付けも上手とは言えないが、
一度、笹島寿美先生にほんの数十秒間でコツを教わってから、
胸元がはだけなくなった。