黒檀色の和服を持っていて、これは内側には白い細雪が舞っているような
華やかさなのですが、表から見れば単に黒一色なのです。
それで、何か小物で色を差すのがいいなと、緋色の扇子を手に入れました。
この色が和名では深緋と言います。読みは、こきひ、こきあけ、ふかひ、と三種あります。
明治時代の装束に関する文献『歴世服飾考』にいわく、
「たとへば桑の実の、初は赤きが、後黒となりたるが如しといへり」
西欧の文明に追い付けと、あくせくしていた日本なので文明開化などと言われますが、文化自体は世界のトップクラスで咲き誇っていたことを、忘れないようにしましょう。色彩の繊細で絢爛たる名称を見る時、私はいつも先祖の美的感受性に畏怖の念を抱きます。
こうした和の色の文化の命脈を保っていたのが皇室ですが、近年御地赤(内親王に贈られる格別の赤い着物)など、伝統を無視、自己流にアレンジなさる方が皇室内にいらっしゃるとかで、伝統の世界の職人さんの嘆きが耳に届くのは、由々しきことだと思っています。御地赤における模様の内容も配置も、邪気から身を護るための結界なのだそうで、勝手にデザイン変更などとんでもないことなのだとか。
伝統というのは長年の先祖の知恵の累積でもあります。
大切にして頂きたい、とお願い申し上げるしかありません。
御地赤も、親王の黒紅縫(くろくれないぬい)も着用が許されるのは
皇族のみであり、一般がいかに守ろうと躍起になっても守れないのです。
皇室内の伝統の糸はいったん切れたら、もうつなげません。