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Channel: 井沢満ブログ
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思い出が消える

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MBS「わが家」の公式HPに、作者の言葉を寄せたので

間もなく掲載されるかと思うが・・・・・

その中にEさんのことを書いた。

世田谷の野沢という、私にとってはふるさとのようなところで

ご近所さんだった方だ。

犬連れの散歩者同士でいつの間にかお話をするようになり、

そしていつしか、私のドラマを何作も見ていてくださっていることを

知った。あちらは当初、私を私とは知らず、犬の飼い主同士として、

知り合った。

的確な感想をくださる方で、私にとっては身内よりも身近な、

「第一番目の視聴者」であった。

だから新作の放送が決まると、真っ先にその方にメールをする。

今回もそうした。

ところが、いつもは打てば響くでお年に似合わぬはしゃいだ

絵文字いっぱいでお返事をくださる方が、来ない。

そのうち、やはりオンエアを知らせた別の方から

メールが入った。

Eさんがタクシーの中で心肺停止になり、今実は救急治療室に

いる、と。

それが4日だったという。

処置で心肺は動き始めたが意識は覚めぬまま、

今日に至る。

MBSの公式HPに言葉を寄せた時点では、まだ一縷の奇跡に

すがっていたので、末尾に「回復を祈りつつ」と記した。

しかし、医学上もう目覚めはあり得ないという判断になったそうで、

送り込んでいる栄養を止め、自然にあちらへ向かわれるようにするという。

生前私の犬達がお世話になった方でもあり、私一筋で人に

慣れようとしない下の子が、なついていた数少ない人であり、

私や家の者が長時間留守するときは家の鍵をお渡しして散歩に連れ出して

頂いたり、時には一泊で預かっていただいていた方であり、散歩もいつしか

長時間をお互いの犬達と一緒にしていた。

私の上の子はパピヨンで、これは人懐こく社交的で陽気、

下の子がチワワでこれが偏屈で、私に密着する余り

人に心を開いていたのが、私の母、それとしじゅう預かって頂いていた

お隣の方、そしてEさんの3人だけであった。

だから私は、第一番目の視聴者であると共に、私の犬達を

最もよく知っている人を同時に喪う日をやがて迎える。

お互いの犬達も身内感覚であったせいか、どうなのか

逝った日にちも、23,24,25日と月はそれぞれ違うが並んだ。

Eさんは間もなく深く愛していた「子」(犬とは言わない)に再会できるで

あろうか、とそれだけがいくらかは、なぐさめになる。

そんな折、私が犬達と暮らしていたエリアにあったイタリアンの

店が閉店になると、オーナーからメールが来た。

自分の家のダイニングのように入り浸っていた店である。

出前はしない店だったが、来客が大勢あるときなど

ピザを配達してもらっていた。安くてとびきり美味しい店で、

転居して遠くなっても、たまに食べに出かけていた。

思い出がひとつ、また消える。

私の犬達は、晩年病んでくれて徐々に死へとあゆんで行ったので、

心の準備が出来たのだが、大切な人は今まで二人、

「明日またね」と別れ、翌日や10日後にはもういなくなっていた。

長く生きるという事は、経験や知識を得ることでもあるが際限なく

人や愛する他の命を喪失していくことでもある。

一期一会という言葉が、としどしに意味を深くして行く。

それでもまだ人さまと相対するとき、腹のくくり方が緩いと思う。

どこかで「またある明日」と思っているのだ。

 

 

 

MBS「わが家」公式HP http://www.mbs.jp/wagaya/


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