稲垣吾郎というか細い「少年」に会ったのは、私が平成元年度の
朝のテレビ小説「青春家族」を書いた時だった。
久々の現代ものということで、視聴率も快調で楽しい仕事だった。
稲垣吾郎くんは新人で、SMAPという名もまだ知られていず、
記憶に誤りがなければ、グループが出来てまだ1年経っていなかった
と思う。
打ち上げで、顔を覆い肩を震わせて泣いていたのが少年、吾郎くんだった。
カラオケを歌ってくれたが、その時はあんまり上手ではなく、
それを藤真利子に言ったら、そのままをメリーさんに告げられ、焦ったことがある。
まだ無名時代の山口達也くんが拙宅に事務所差し回しの車で迎えに来てくれて
SMAPのコンサートに出掛けたこともある。その時、ジャニーさんとはお会いした。
随分濃密なお付き合いがしばらく事務所とも、ジュリーさん、とりわけメリーさん、所属の子らともあったのでSMAP分裂という話になった時は、たいそう驚いたし、あの事務所を出てやって行けるとなぜ、誰が思ったのかいぶかしかった。
残ると決めた木村拓哉くんがファンの間では悪く言われているようだが、
残留を決めた彼のほうがまっとうな判断力の持ち主ではあると私は思う。
女房子持ちの大人の分別が、働いたのかもしれない。
業界知らぬ人たちは単純に悪者を作り上げるのかもしれないが、
そんな甘いものでもない。仮にキムタク同意で全員で事務所を出ていたとしても、もはやSMAPとして業界で生きていけはしない。局も怖くて彼らを使えない。
昨日までそこら辺の普通の子らであったのをスターに育て上げる事務所という組織の力もまざまざと見ていれば、そこを安易に出ることの理不尽とこわさは、はたから見ているほうがわかる。
事務所の強権をいう人もあるが、それがあるから単体では世の中に
出られないレベルまで、グループ売りして世の中に押し出せるのだし、
単体では潰れるゴシップ、不祥事も大きな怪我とはならずに
済む。一人だけでも、スターを作り上げ世の中に押し出す至難を
思い知っているだけに、事務所の圧倒的力を否定はできない。
それぞれひいきのファンにとっては、キムタクや事務所を悪者にしているほうが
楽なのだろうけど、解散でも事務所にとどまる彼らのためにはならない。
余計居心地を悪くするだけである。
さまざま所属のタレントの事務所時代、そこでの葛藤(目の前で泣かれたこともある)、そこを出てから、あるいは出されてからの彼らの命運をしばらく至近に見てきた者としては、事務所脱退はいかにも自殺行為と私には思えたのだった。
元の鞘におさまって、このまま行くのかと思っていたのだが、結局それぞれ
身は事務所に置いたまま、ソロ活動になるという。事務所を出なければ、
それなりに、(しばらくは)回っていくのかもしれない。