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Channel: 井沢満ブログ
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「リズム」と「調べ」としての日本語

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昨今、小説やエッセーの分野でもそうですが、とりわけセリフという「音声」の
分野でさえ、音としての言葉に敏感な書き手がいなくなったことが
残念です。

脚本家で言えば、向田邦子さん、倉本聰さんが音としてのセリフに敏感な
方々で、共通項はラジオを書いていらした時代がある、ということです。
聴覚のみに頼ったラジオの世界では、音としての言葉に敏感に
ならざるを得ません。

言葉が寝そべったままの、音として立ち上がらないセリフを苦痛に感じる
役者さんも少なくなりつつあるのかもしれません。

聴いていて、これ言わされているのか、と気の毒に思うセリフがあります。
昔、俳優さんたちは「音」に敏感でした。
現役で言えば、八千草薫さん、橋爪功さん、三田佳子さん、いしだあゆみさん、
高嶋政宏くん、斉藤由貴ちゃん・・・・・まだいますが・・・・

こちらが「音符」として投げかけた言葉を正確に受け止めてくださる
役者さんたちです。

誰とはいいづらいけれど、音としての日本語にえらく鈍感な役者が一人いて
無念な思いをしたことがあります。その方はいわゆる、元々の日本人ではいらっしゃらず、それも関係あるのか、どうか? 不明です。ただ演技力は確かな方でした。

昔、NHKラジオに「日曜名作座」というものがあり、それにご出演だったのが
森繁久彌氏でした。

森繁氏は言わずもがなベテラン中のベテラン、日曜名作座も台本を
その場で、さーっと黙読、そのまま本番に突入してよどみなく
演じられる方でした。

そんな森繁さんに、セリフと語りを書いたのが若き日の私です。
その頃は、ラジオの現場にもテレビの撮りにもまめに顔を出していたのでした。

ラジオが仕事のスタート地点だったので、言葉を音声化して耳に蘇らせられながらの執筆には慣れていたのですが・・・その私が、心の中で「音読」しながら書いていたとき、ふっと「音的に」つまずくナレーション部分があったのです。

普段なら、音読しても円滑に読めるよう推敲するのですが
その時、ふと怠け心が兆したのですね。
「森繁さんだし、ま、ま、いっか」

超ベテランなら、少々音的になだらかではなくても、すっと
やってくださる・・・・であろうと。

で、現場に臨みました。

森繁さん、相変わらずリハーサルもなくスラスラと演じていらしたのですが、
ふっ・・・・と躓き乱れたのが・・・・そう、私が(声には出さないながら)音読して
躓いていたまさしくその箇所なのでした。

したたか思い知り、それ以来肝に銘じています。セリフは手抜きするなよ、と。

今は手抜き以前に、音としてのセリフやナレーションに対して聴覚の敏感な作家が失せた分、役者さんが軒並み器用になって、こなしてしまいます。

ただ、そういう若手でも私の書くセリフは「リアル」という体感で捉えてくれているようです。
リアルなのではなく、生理的な口の動きに逆らわないセリフを書いているのですが。内容自体は日常語に見せかけた非日常語なんです。

以下がミニ文章講座ですが、文章を書く時音読をお勧めします。
面倒でも、慣れてくるとそのうち黙読していてもその文章の「音とリズム、そして調べ」が耳に聞こえるようになります。

心地よい響きでそれが立ち上がるなら、いい文章、人にすんなり伝わる文章なのです。

先だっても書きましたが、長すぎるセンテンスはとりあえず、二つか三つに分けて述べましょう。

それと「私」を文頭に持って来ないよう心がけるのが、他民族、他言語にはない
日本人としての奥ゆかしさです。

英語だと I think・・・・と「私」が冒頭に来るのであり、そういう成り立ちの言語ですが、日本語は「私」と「あなた」との間にさほど画然とした境界線はありません。
私はあなた、あなたは私である・・・という海の要塞に護られながら
天皇を頂点に、遠く辿れば皆がどこかで血を共にしている・・・・という彼我(ひが)の距離の薄い感性で生きてきたせいかもしれません。

「私はそう思います」と私を前面に出さず、「そのように、私は思います」と少なくとも私を文頭に置かないのが本来の日本語の流儀、慎みです。

書簡を認(したため)る際に、「私」を文節の頭に書かぬのはかつて常識でした。
「私」で文章を始める時は、文節末尾に「私は」と小さく、ぶら下げる形で
書くのが流儀でした。

三田佳子さんとひんぱんに手書きのFAXのやりとりをしていた時期がありますが、FAXの文面(毛筆の縦書き)ですら三田さんは「私」という主語は、行の一番最後に小さく添えるか、文の途中に溶け込ませるか、あの時代の俳優さんたちはそのての教養がおありです。

樹木希林さんも、毛筆の書体が麗しいお方。
八千草薫さんもいただくお便りの文字は、流麗です。
草笛光子さんも。

今日述べた、心かげていただきたいことを、まとめます。

1 文章は音読してみる。ひっかかり、なだらかに流れないようなら書き直す。

2 音読して息継ぎしなければならないような長すぎるセンテンスは、2つか3つのセンテンスに分ける。

3 「私」という主語をなるべく文頭に持って来ない。(「なるべく」という原則論です。コメント欄などで、ここまでの気配りは要らないでしょう)

 

誤変換他、後ほど推敲致します。

 


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