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Channel: 井沢満ブログ
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「生まれ変わるならまた日本がいい」日本への恋文(ラブレター)

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袂に綻びがある着物を、悉皆屋さんに持って行った。綻び程度なら
洋服のリフォームをする店で用が足りることは学習済みだが、
少々値が張るかもしれない着物だったので、着物を着たことがない人に
委ねるのも心もとなく、専門の方に持参したのだったが、

着物が広げられたとたん、悉皆屋さんが「おお、これは」と呟き、
店内の客も含めて、嘆声が上がりにわかに
店の中に灯(ひ)がともったような賑いになった。

そこはリフォームを商う店であったが、悉皆屋さんが出張で相談に
乗ってくださるというので、出向いたのだった。

「これ、国宝級ですよ。越後上布の百目亀甲。アンティークで運良く出ても100万円はくだりません」

結局、洗い張りと仕立直しをお願いすることになった。誂えたので着丈も裄もそのままだが、お腹がきつくなっている。

洗いは麻なので大丈夫だとのことだった。

ありがたや、これで“国宝級”が蘇る。私という中身が添うかどうかは不問に
願うとして。単衣のこととて、手元に戻ってくるのは5月。戻って来た節は画像で
お目にかけよう。

ところで普段から“着物の神様”にご縁のいい着物があれば、必ず巡り合わせて
ください、と念じているが念ずれば花開く。

雨天と、喫煙の激しい場用にレーヨンの着物と羽織を更に欲しいと
思っていたのだが、双方サイズピッタリのが手に入った。新品である。

これで単衣とそれ用の羽織を手に入れれば万全である。

墨色のカシミヤの、インバネスの裏地が更に黒で面白くないので、緋色か紫で張り替えたいのだが、と相談したら、洋装用のミシンがないのでそれなら洋装のリフォーム屋に生地を持ち込んで、やってもらったら、と生地を商う店を紹介してもらった。

「男物の長襦袢は茶か鼠に紺、御納戸に押し込められたような色目しかなく、窮屈でつまらない」とかこったら、女性用の大きめの反物を買いそれで誂えられたらいかが、とアドバイスを受けた。

「御納戸」が通る人たちでよかった。そういえば色の和名に「お納戸色」とゆかしい呼び方がある。灰色がかった藍色である。

和服は出来合いでも、求めると特有の華やぎがあるのはなぜだろう。
洋服と違って、一過性ではなく一生「添い遂げる」契(ちぎり)がそこに
生ずるゆえか。

目を通さねばならぬ資料があるので、帰路はカフェに寄ろうかと
思っていたのだが、顔に斜めに吹き付けてくる風に雨の気配、求めたばかりの
着物と羽織を濡らしたくなく、大きな紙袋の中で、時折畳(たとう)が触れ合い、
かさこそと枯れ葉の擦れ合うようなほのかな音を楽しみながら、家路を辿ったのだった。

また生まれるなら日本がいい。

伊勢海老、河豚、毛蟹と最近加わった喉黒。炊きたて白いご飯。
それに着物。そして日本語。
私の愛国心など、そんなものである。愛国心というより日本への
恋心か。

 


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