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Channel: 井沢満ブログ
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「女殺し油の地獄」

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奥山和由さま

「女殺し油の地獄」を拝見、脳天を貫かれました。これは見事。
演出、俳優、脚本、三位一体で掛け値なしの傑作。

まず時代劇としての端正な佇まいに目を奪われ、そして
そこに添う官能の色艶。

相当地毛を使ったのかカツラと
顔の境目がナチュラルであったことも嬉しかったのです。
大方、カツラと肌の継ぎ目が露わで興ざめすることが多いだけに
細部ですが、作品の目配りがこんなところにも利いています。

いきなり油地獄の修羅場に、子供たちの転がった玩具が無造作に転がっていて
鮮やか。わらべ唄や物売りの声も、どこから採取なさったのか、メロディは
創作なのか、と尽きせぬ興味が湧きます。
最初に不義密通の男女がさらされて、なぶりものになっているシーンも
必要ですね。今どきの、フリンとは覚悟が違う時代の、まぐわうにも
命を賭けてのそれであったという提示。またそれを、当の小菊が
いたぶっている面白さ。

細部ばかりをいうようですが、全体が掛け値なしの傑作なので・・・・
それに神は細部に宿るということで言えば、
偶発か、演出か判然としないのですが、与兵衛の油に濡れたふんどしに、
男根の存在がぼってりと浮き出るいやらしさ。エロスときれいにいうには、なまなましくて。
どうも、監督の計算内であったような。
人物の動きにも、監督の手さばきを感じます。

五社英雄監督には、ある席でつかの間お目にかかったことがあり柔和で、
私のような些末な書き手に恐縮するような敬意を払ってくださる方で
あることに、思い込みのイメージがひっくりかえったのですが、
映画に於いても「男目線で女を描く人」という偏見があったことを
告白せねばなりません。

「女殺し」でその偏見を恥じました。たっぷり裡に女を飼っている人でも
あるような・・・・。それとも、最期のインスピレーションがスパークしたのでしょうか、女を描くにも過不足のない・・・・アートと娯楽の均衡が取れた・・・・諸条件が自ずと打ち揃い、奇跡的な作品が誕生することがありますが、そんな作品を残して去られ、幸せな方です。

浄瑠璃を活かした音楽も、好きでした。衣装もライティングも何もかも。

井手雅人さんの近松脚色も、梗概を読んだ時は「いじり過ぎ」ではないかと思ったのですが、いいえ、まさに、こう。近松が現代に生きていたらこう描いていたでしょう。時代を損なわぬまま現代に移植されていました。

一つ、演出かホンのト書きなのか判然としなかったくだり、小菊がお吉の足をギリギリと踏みつける、私もおそらく考え詰めればはっと、出てくる描写ではあろうかと負け惜しみで思いましたが、脚本上で学んだことの一つです。もう一つ、ト書きか演出か判然とせぬのが、小菊が与三郎にのしかかられながら匕首の切っ先で、与三郎のふんどしの紐を切るところ。

あと、もし増村保造監督が同じ脚本で撮ったらどうなのだろうと、なぜかしら思いました。もっと変な連想で言えば、黒澤監督なら? およそ、男しか描かない方だったので、どうなのか解りませんが、画面の構図といおうか完成度といおうか、そこは黒澤映画を想起したのです。

末尾で恐縮ですが「熱狂宣言」における二度目の花嫁の顔を余り写さないのは
ご本人の要請であったのか、意図的であるのか判りませんでした。
いずれにしても、あの「抽象的な」花嫁で正解だったと私は思います。
というのも、松村さんが男として色っぽく、見ている女の観客達の多くが
松村さんに恋して、この男に寄り添い面倒をみたいと思い、映画を観ている
つかの間は結ばれることをふと夢見るだろうからです。

それにしても、タキシードもありきたりの白ではなく、凝った織りが入っていて、
松村さん、どこまでおしゃれなのか。

治る可能性低く、日々深まりゆく病気をしかし表看板にはせず、
闘病記でもなく、同情と共感を誘うでもなく、熱狂的楽観主義の
これは不埒な映画です。

実業に疎く、若い起業家が一部上場に一代で持ち上げることの凄みが今ひとつ
解らないという一点においては、私は最良の観客ではないかもしれません。

奥山和由という、私には遠い火明りでありながらずっと気になっていた方の
作品渉猟をこれから始めるかもしれません。何しろ「遠き落日」と
今回の「女殺し油の地獄」以外を存じ上げません。興味はご本人に
向かっていたようです。
「RAMPO」など、二作を比べてみたいと興味をそそられながら、最も忙しい時期に私があり、かたわら厭世から来る命を粗末にしつつの入退院の明け暮れで、映画館に足を運ぶ時間もエネルギーもなかったせいもあります。次は「うなぎ」か手に入るなら、そして可能なら両方の「RAMPO」を観てみたいと思っています。比較がおそらく奥山研究の一助になる、という大上段なことでもないのですが、まあ、むらむらと好奇心をそそられるのです。

素晴らしい作品をご紹介頂いたことに、感謝申し上げます。
お忙しい方に、長々と恐縮です。少しばかり熱に浮かされて
いるかもしれません。作品の瘴気にあてられているかも。

 

愚満 拝


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