小津安二郎監督の「彼岸花」を見た。
正直なところ、シナリオが珍しく完成形には達していず冗長。
これほどの名匠でも脚本が至らぬと、ここまでか、と
いうのが感想である。
それと、美意識の高い監督なのに一家のテーブルに置いてある
花の生け方の乱雑さと種類の貧相さに一驚。花には視線が行く
監督ではなかったのかもしれない。こんな些末事、昔は
私も気が付かなかった。
面白かったのは佐分利信さんが演じる父親が二等車(当時のグリーン)から
広島の娘に電報を車掌に託すところ。1958年製作なので、当時はそうだったのだろうと時代考証上、参考になった。戦後14年目なのに、戦争の片鱗もなく
裕福な画面なのは、小津調だろう。とりわけ女たちの普段着の着物のコメントは
趣味が良い。
畳に座った視線での、ローアングルに固定したカメラは相変わらず。作品の
品の良さも。それは配役された俳優たちも、品のいい人ばかりが
キャスティングされている。あの当時の役者の品の良さは
なんだろう? 日本が総じて下品になったのか。
登場人物の中、山本富士子さんと笠智衆さん、よもやこの人達と
お会いして言葉を交わしたり、仕事をご一緒するなど
映画の封切り時には夢にも思わなかったことである。
山本さんとは数年前、ある公演の楽屋でお目にかかり驚いたことに
私をご存知でいらした。当時はまだ私がテレビに出ている頃だった。
笠智衆さんとはNHKの単発ドラマでご一緒して、稽古場で
お目にかかり言葉を交わしたことがある。当時は
テレビドラマも、じっくり稽古してから本番に入っていた。
樹木希林さんもそこにいらして、しばらく私的にもお付き合いを頂いた。
「五瓣の椿」(野村芳太郎・監督)を半世紀ぶりぐらいに見た。封切り当時、面白くて
2度続けて見たのだが、シーンの90%程度は忘れていた。
「風前の灯」という木下恵介監督の映画は、これも大昔に一度見たきりで
見直したのがつい最近だが、妙に記憶が鮮明だった。なぜなのだろう。
「五瓣の椿」の岩下志麻さんは二十歳ぐらいでいらしただろうか。
美しくて芝居も見事。
メールをお出ししようかと思いつつ、まだ書いていない。
暗がりの銀幕に大写しになる岩下さんを拝見したのは
大学生の時であるが、むろんこの方と後年仕事をしたり
私的にもお付き合いが生ずるなど、脳裏をよぎりもしなかった。
漠然と物書きになるのかもしれないと思っていたが、脚本という
形は考えていなかった。
山本富士子さんも、子供の頃から銀幕で拝見していて
この世のものならぬ美貌を、後年間近に拝見することが
あろうなどと、これも思ってはいない。
半世紀前のスターさんは、文字通り映画館の暗がりに
明滅する遠い夜空の星であった。
中学か、高校生の頃であったかロケ先で見かけた三田佳子さんも同じくである。よもやお友達付き合いなど。
誤変換他、後ほど。