着物を初めて着る人(男。若い)の、見立てがてら買い物に付き合った。
最初は練習も兼ねるので、アンティークがいいよと、私が
時々寄る店にいざなったのだが、背が高いので合うのがない。
アンティークを出すのは、大抵50歳から上の人達で
さして、背が高くない人が多いと言う。
着られれば千円などというものがある。
長身の若者のサイズを出してもらったら、ピッタリだったのが1枚。
私は買い物が早いほうで即断即決。人のも同じく。
「あ、それ。それになさい」
言って、しみじみとその着物を見たが、安い。安すぎる。
「これ、ポリですか?」と訊いたら、
「いいえ、シルクです」
「え。で、この値段?」
何とも光沢のある風合いと、緑がかった茶が秀逸なのである。(和の色で呼称はなんだろう。洋服にはない色だ)
玉虫色、と店員さんは表現した。角度によって微妙に色彩が変わる。
「・・・・・実は」
と店員さんが声をやや落とした。
「訳ありなんですよ」
小さなシミか、傷でもあるのかなと見てみたが、そうではなかった。
「お店が倒産しちゃって、ここにあるタッグを外してるんです。普通なら、
このお値段の5,6倍ですよ」
人の買い物ながら、ラッキーなことである。
付き合ったお礼ということで、食事をと言ってもらったので、
実はその店の近くに、フグを食べさせる店があり、
普通ならそんな高価なものをリクェストなどしないのだが、
値段も出ていて、これが驚きの安値。
まあ外れても、値段が値段だし・・・・ということで、入ったのだが、
てっさもちりも、通常のふぐでやんした。
イワシの塩焼きもなんで、こんな安いの、という値段だったが
めっさ美味かったし。
これも人様の財布ながら、えらくオトクな気分となった夜、
機嫌よく家路を辿ったのであった。