独特の雰囲気と演技力で、私も好きだった俳優が
マッサージがどうとかで、事務所を馘首されたようだ。
彼の国籍は以前から知っていた。だからどうということは
無論なく、いい役者だと思っていた。
朝鮮籍から韓国籍に変更したのはなぜだろう、と思った程度である。
それと、遅咲きだったので下積みの苦労もあったろうに、こんなことで
ふいにするのか、とも。
報道の余りの多さに辟易としながらも、つい見てしまうのは
親しい知人が出張マッサージ派遣を手がけているからである。
その中には女性もいる。やはり念書といおうか、
セクシャルハラスメント対策として、書面を持たせていたようだが、
現在は知らぬ。
私も女性のオイルマッサージ師を頼んだことがある。
と言っても国内ではなく、ロンドンのフォーシーズンズホテルに
滞在中のことである。日本からのメーッセージが目も覚めるような
緋色の封筒に入れられ、ひっそりとドアの隙間から差し込まれるのが
印象に残る格式のあるホテルだった。
日本式の指圧をやってくれる人を頼みたかったのだが
当時の英国では見当たらず、相手が女性で施術にはオイルを
用いるということを承知で頼んだ。
そのイギリス人女性が大きなキャンバス状のものを引きずってきたので
何だろうと思ったら、カバーを外して現れたのは組み立て式の
簡易ベッドだった。そこで施術が行われ、ツボという観念が
なく、オイルで背中や手、足をなでさすりリンパの流れ改善を試みる
イギリス式はやはり性に合わなかった。不得手な長旅で疲れた
身体が癒えたという実感もなかった。うろ覚えだが西洋人に
「肩や首がこる」という概念はないと聞いたような気がするが、
どうなのだろう。
今回の事件で思い出したのが英国の女性出張マッサージ師が
わざわざ持ち歩くキャンバス地の簡易組み立てベッドである。
1人がかろうじて横たわれる大きさしかなく、そこに
施術以外の要素が入り込む余地は余りない。
日本ではクライアントが常時使っているベッドや、
ホテルのベッドそのままなのでけじめがなくなるのかもしれない。
持ち運びベッドではクライアントの元へ向かうにも車がいるであろうし、
日本ではムリなのかもしれないが、しどけなくなることへの線引きとして、
ふとイギリス人の施術女性がわざわざ持ち運んでいたベッドのことを
思い出したのだった。
フォーシーズンズはハイド・パークとバッキンガム・パレス・ガーデンズの
間にあるホテルで豪奢ではないが品のいいホテルだった。
ウエストミンスター寺院が近くだったと思う。
イギリスの食事は噂に違わず、馬の餌料並みであったが一夜、
「ヴィラ・タベルナ」というジョークのような店名の
イタリアンレストランに出かけてやっと、餌から食事へと昇格したのだった。
近くのレストランに女王陛下がお出ましだと、店員に聞いた。
どういうものか、その昔ローマでオランダの女王陛下と同宿であったり、
サンフランシスコのフェアモントホテルで、遊説中のケネディ大統領の
警備の一行と警察犬と出くわしたりする。しかし、
パリでは昭和天皇がお泊りになったというコンコルド広場に
面したホテル泊で、いかにも世界のVIPに出くわしそうなホテルなのに、
ここでは何もなかった。ボーイがやたら頭が高かったことを覚えている。
名前が出てこないので調べてみたら、ホテル デ クリヨンだった。
一泊12万強で、たまげた。昔は私も景気がよかったらしい。
パリ滞在中のサジェスチョンが欲しくて、パリ在住の岸恵子さんに
電話を差し上げたら留守電で「仕事で日本に出かけています」
とのことだった。
セーヌの川下りをする船、バトー・ムッシュで大騒ぎしている
日本人団体に出くわして眉をひそめたが、今それと同じ光景を
東京に来る外国人に見ている。だから日本人も昔は、ああだったか、
そう言えばルイヴィトンで爆買いもする女たちもいたな、
あまり偉そうに言えぬかな、と自省したりもする。
が、小さなごく小さな声で言うなら、日本人はあれから進化したが、
彼の国の方々に進化はありや?
余談に逸れた。