しばらく、のんきな暮らしなので出来るだけ映画を観ておこうと
思っていたのだが、気に入って行きつけの映画館がメインテナンスで
クローズしたまま、いつまでも開かない。
初めてTOHOシネマズのシャンテに出かけた。日比谷である。
演物は「女王陛下のお気に入り」で、たいそう面白かった。
観ながら、こりゃあ英国宮廷版「大奥」だなぁと
思ったのだが帰りに見たらポスターにもそのように
刷られていた。
が、日本の大奥ものより品格を備え重厚感があり、
心理劇としての深い側面もあり、傑作の部類であろう。
品格と言ってもダーティワードが飛び交い、おつに澄ました
上辺の品の良さではない。
冒頭、「ラ・ラ・ランド」の女優さんが馬車から突き落とされ
泥道に這いつくばるのだが、それが糞尿にまみれた汚泥の
道である。
といえば、日本が併合する前の李氏朝鮮時代の道を
想起する人もいるだろう。
18世紀のイギリスも似たりよったりであった。
違うのはイギリスのほうは、一方に宮廷文化が
きらびやかに花開いていたことで、ファッションも華美を競い、
男も美しくあらねばならぬということで化粧をし、
華やかな衣装をまとい、だが朝鮮では染料もなく、
白一色であった。馬車もなく、両班という貴族は
石炭を運ぶような二輪車での移動である。まともな車輪を作る
技術がなかった。
日本では江戸中期から後期にあたるが、無論厠はあった。
内厠は富裕層にのみであるが、どんな長屋暮らしの者たちも、
屋外に厠はあったのだ。
ロンドンもソウルも、糞尿で道と河が悪臭を
放っている頃、日本人が清潔を保ち入浴を好んでいたのは、
精進潔斎に見られる、不浄を厭う特有の神道的感性かも
しれない。
衣装もむろんカラフルで、とりわけ歌舞伎における衣装は、
色彩の意想外の組み合わせが現代に通じるアーティスティックな
感性で、民間でも茶とグレーそれぞれの明度に応じて、
幾通りもの名称が与えられていた。
もともと色彩感覚に秀で、美意識も高い民族なのだと思われる。
我が国びいきも度が過ぎるとみっともないが、以上は
単に事実を述べたまでのことである。
この文化を失いたくない、後世に能う限り伝えたく
思うものである。