コメント欄に紹介を頂いたが新聞取材に答えられた「わが家」の父親役、長塚京三さんの
役の捉え方が知的で、感動した。
こういう頭のいい役者さんは、楽だ。
脚本に込めたメッセージを的確に捉え更にスケールアップしてくださる。
番宣兼ねて、これから脚本やシーンの一節を抜書きすることもあるので、
事前に知りたくない方はスルーなさって欲しい。
12月18日 高知新聞(19面)朝刊より。
来月4日・特別ドラマ「わが家」 長塚京三
静かな口調が少しずつ熱を帯び始めた。2015年、70歳を迎える長塚京三。
「一生懸命役を思えば、思った形で演じられる境地には来ている。そこから、もう一つ世界が開けてくる可能性がある」。芝居への意欲は衰えを知らない。
新春の特別ドラマ「わが家」(TBS系 1月4日夜)では、30年ぶりに家族の元に舞い戻る父親の武士を演じる。
息子の一歩(向井理)と娘のほの香(村川絵梨)は東京で別々に暮らす。妻・鯛子(田中裕子)は港町で家を守る。
ほの香の結婚話を発端に、バラバラだった家族が絆を取り戻していく。
物語は一歩の語りで進む。
「今を描いているが、一歩の回想でもあるような不思議な曖昧さを持つ作品。一歩の記憶の中で美化された武士をイメージして演じた」。
長塚は、リアリティーから少し外れた武士を「寓意的な父性の象徴」と呼ぶ。
そんな抽象的な「理想の父親像」を生身の長塚京三として具現化しなければならず、役者にとっては「残酷な作品だった」という。
「見ている人にどう思われてもいいやっていう強さが、この役のミゾだね」と苦笑いする。
ドラマのハイライトは、一歩との親子げんかの場面だ。
「触れ合いたくて仕方ないのに、大人になるとできない。父と子の“ラブシーン”みたいなものかな」
15年のNHK大河ドラマで、幕末が舞台の「花燃ゆ」にも、ヒロインで吉田松陰の妹・文の父・百合之助役で出演する。
「人生の究極の幸せは、すべて家族の中にある。素直に必要とし、必要とされる。大事なのは、そういうことじゃないかな」。
家族について語るその目には、穏やかさが戻っていた。
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長塚さんの写真に添えられたコメント
「息子というのは、若い時の自分ですね」
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私が、うなったくだりは青字にしておいた。
早稲田からソルボンヌに留学の理由をうかがったら、
「あの当時は学生運動で、大学にいても勉強できなかったからです」
そう、淡々とおっしゃったが、だからと言って誰もがソルボンヌに行ける
わけでもない。
あちらの監督に見出され、それが俳優業へのきっかけであったようだ。
ハイライトの父と息子取っ組み合いのシーンの脚本を全部抜書きしておこうかとも思ったのだが、それはさすがに感興を削ぎそうなのでやめておく。雑誌「ドラマ」には、全部掲載されているが・・・・こちらでは、
セリフから一部抜粋だけ。
一歩「言いたくないけど、オヤジがいないせいだ」
武士「そう言われたのか」
一歩「言われないけど。お父さんはどこの料亭で働いてるのかって訊かれて、つい口ごもっちゃったんだ」
武士「今どきそういうことで、落とす会社はねーだろ」
一歩「言い切れる?」
武士「能力が秀でてりゃ、親はなくとも、世の中は拾い上げる。オレはそうだった」
一歩「腕一本の仕事と会社は違うよ」
武士「やる気の無さを、オヤジがいないせいにして、逃げてるんじゃないのか?」
一歩「はぁ!?」
武士「自分に言い訳するような生き方は止めておけ」
一歩「おふくろは離婚もしないで、毎日家掃除して守って、布団干して! ほの香は、結婚相手にも本当のこと言えず、苦しまぎれの嘘ついて。家族それぞれが、どんだけ!!」
武士「オレがオヤジに死なれたのは、三つの時だ。それでも、へこたれず仕事した。所帯も持ち、二人の子もなした」
一歩「捨てといてよく言うよ!」
武士「(瞬時見つめていたが、挑発する)女々しいやつだな」
一歩「はぁ!?」
武士「オヤジがいねーくらいで、何をくどくど。自分の半端な生き方を、オヤジのせいにして満足か。そういうの、卑怯者って言うんだよ」
一歩、はじかれたように立ち上がり、武士を不器用に殴る。
武士、一歩を鮮やかに殴り返し、一歩は見事に吹っ飛ぶ。
起き上がり、武士に獣の吠えるような声を上げ突進、むしゃぶりつく。
もみ合う。二人の感情の背後には、永遠の別れを目前にした親子の気の昂ぶりもある。
鯛子と、ほの香が現れる。