人様にお会いする時は、帝国ホテルのラウンジが多い。
理由は誰も道に迷うことのないことと、私が日比谷公園を
歩きたいからだ。
昨日は帝国ホテルではなく、日比谷公園内の松本楼を
指定させていただいた。
約束の時間まで、小一時間ゆったりと公園内を散策して
普段は飢えている、土の感触を足元に踏みしめ、地のエネルギーを
頂きつつ、木々の放つフィトンチッドを浴び、小鳥の声を
頼みしみながら、細胞がよみがえるようであった。
松本楼では、戸外のテラス席に座って、こちらでも緑を楽しんだ。
以前、世田谷の緑深い辺りに暮らしている頃、忙しさの最盛期でもあれば
体調も崩していたので、ほとんどエリアから出ず、物書きとしては
都会の息吹から遠くなり、まれに街に出るとその空気を精一杯、
体内に取り込んだものだが、今は逆。
緑のエリアに足を踏み入れると細胞を前回に空気を取り入れる。
いい作品を観ることも、エネルギー補填になるが、このところ
追いかけているコン・ユの「サスペクト」を見たが、圧倒的な
力作で、次から次息苦しくなるほどの展開で、コン・ユが
圧倒的によく、また北の元特殊工作員設定のコン・ユを追うパク・ヒスンが
圧巻で、この俳優を知らなかったので調べてみたら、むしろスラリとした
美男でほとほと驚いた。映画ではアクの強い、男っぽい骨格の
「おじさん」だったので。もの凄まじいほどの演技の力であり、
コン・ユもまた顔つきからいつもとは異なり、躰はこのために
鍛えなおかつダイエットしたのであろう、見事であり彼がいかに
禁欲的な役作りをしたか、よく分かる。
韓国の俳優はほとほと凄い人がいるなあ、というのが偽らざる実感である。
脚本、監督ともに素晴らしかった。監督は単なるアクションだけではなく、
美意識をも持っていらっしゃる方でそこが凄い。
シーンの派手さから巨額予算だろうと思っていたら、インディーズ並みの
低予算だと聞いてまた絶句。役者スタッフ打って一丸、魂を込めた
作品のエネルギーのほとばしりを、ほとんど、襟を正すようにして拝見、
終わったら滅多にしない拍手をしていたのだった。
実作者でもあれば、現場も多少は知っているのでおそらく
この映画の凄みとエネルギーは、一般の方々より
感知できていると思う。
こういう作品を見せていただくと、ふと日韓の関係もいずれは
分かり合える日も来るのではないかと、普段は決して思わぬ
望みを抱いたりもする。心がさほどかけ離れているわけでもない、
いわく言いがたいが、絶望的に離れている部分もあるが万国共通の情は
お互いに分かち合える部分ではあろう。
と言いつつ、夜が明けまた眉を吊り上げるような韓国発の
情報を目にすることになるのだろうが。