余り皆さんの興味はそそらなさそうな「君の名前で僕を呼んで」なのですが・・・
うっかり字幕なしのDVDを注文した怪我の功名で、2度観たのですが、
最初は英語のダイアローグを追うのに精一杯、しかし
2度目は原作で隙間を埋めたこともあり、細部の描写に気がついて
いよいよ、これは秀作だ、という思いを深くしたのでした。
宣伝文句に煽られてアメリカで大ヒットというのを、無邪気に信じ込んで
いたのですが、4月にはもう日本で封切られていて、それでも
私の耳に届かなかったのは、興行的にはさほどのことでも
なかったのかもしれません。観た作品やドラマのことを書くと
その作品を好きな人のコメントが来るのですが、今回は反応がゼロなところを
見ても。
と思えば、むしろ納得で・・・・テレビもそうですが、映画はとりわけ
質と量が一致しないことのほうが、むしろ多いのです。
昨年度だったか? なんだかダンスする映画と、地味な「ムーンライト」が
アカデミー賞を競い合い、結局地味な「ムーンライト」が授賞したのだった、と
思いますが、観客を膨大に集めたのは男女がなんだか踊っている、
退屈もしないけど、さして深くもないダンス映画のほうでした。
映画もドラマも、無論好き嫌いで観ていいので、質がどうのというのは
気難しく映画にアートを求め、言いたい人間が言えばいいので。
それにしても、プロの訳の分かった人たちが「ムーンライト」に賞を
与え、「君の名前で僕を呼んで」は現時点で、各国の賞に
308もノミネートされ、授賞が92という目覚しさ。
創り手としては、人気の度合いはむろん嬉しいことだけれど、
創る者になってよかった、と心の底から思えるのは質で
評価されることです。
それにしても、嬉しい驚きが完璧に近い脚本を書いた
ジェームズ・アイヴォリーが、現在90歳ということです。
というのも、不肖わたくしが90歳まで実は書き抜こうと
思っているからです。なんだか、たまに作動する霊感で
自分の寿命を知っているのですが、長いのですよ。
まだ多少の時間はあるので、修行は出来るしいずれは
得心できる作品を書き上げることができるか、と
砂漠で蜃気楼を追うような日々です。
ジェームズ・アイヴォリーという90歳(書いていた時点はたぶん
89歳)が、あんな精緻なそしてみずみずしい感性のホンを
書いたということが、わたくしには道しるべです。
余談ですが、小説版の中で「エスパドリーユ」という単語があり
前後の脈絡から、おそらくぺったんこ靴だと
踏んだのですが、調べたらやはりそうでした。女性なら知っている
単語なのかもしれません。
若い研究者役のアーミー・ハマーが素敵に履きこなしていて、こういう
靴は、アキレス腱がシャープな人にしか似合わず、しかもアーミーは短パンで、
これも足がまっすぐで長い男にしかそぐわず、日本人には無理・・・
と思い込んでいたら、昨夜観た北野武監督の「ソナチネ」に、若いヤクザ役で
出ていた勝村政信さんが、足がまっすぐで結構似合っていて、靴がエスパドリーユで
あったかどうか、記憶にないのですが。ふーん、日本人にもいるんだ・・・・と
思ったのですが・・・・しかし、「君の名前でーーー」の後に虚無的な
北野バイオレンス映画を観ると、脳が撹拌されました。
奥山和由さん制作の自信作だ、とご本人がおっしゃったのですが、
「RAMPO」や「女殺し油の地獄」のような耽美的な映画をプロデユースなさったかと
思えば、無造作に人を殺す「ソナチネ」を送り出し・・・・面白い人だなあ、と
まだお付き合いのとば口ではありますが、興味の尽きない方です。
プロデューサーという職域に目配りが効くようになったのは、最近です。
書くのに精一杯で、直接接触することの多い演出家は身近なのでしたが。
この間のローマで、花火をぶち上げてくれたClaudioといい、奥山さんといい
優れたプロデューサーは、その言葉の最もいい意味に於いて腕利きの
「山師」です。
奥山さんは、くださったSMSで「RAMPO」について、「あの当時の確信犯的な『遊び』です」と書いてありました。
「所詮、映画、されど映画。出来ればなるべく危ない遊びをしたいと思ってます」
秋に封切りされる「熱狂宣言」に関しては「な~んにもものを考えない、現代の大衆に不埒な遊び相手を与える映画にしようと考えました」
遊びをせむとや生まれけむ 梁塵秘抄
https://www.nekkyo-sengen-movie.com/
誤変換他、後ほど。