村川絵梨ちゃんが出演するという、それだけのご縁で見たのが鄭義信さんの舞台で、
これがが完璧な出来栄えであることに驚き、続いて今度は、南果歩さん主演の
舞台を拝見。これも見事。
ところが、鄭義信さんの作品群の中で、最も世評の高い「焼き肉ドラゴン」を
見る機会がなく、再演を心待ちにしていたら映画になった、というので
出かけたのが、今日。
降りみ降らずみの雨と、強い風に傘を奪われそうになりながら。
端的な感想は、「鄭さんは舞台の人」だということです。
映画自体がつまらないわけではないのですが、これが役者の息遣いが
直接伝わる舞台なら数倍素敵だったろうと、無意識にスクリーンを
舞台に転化しつつ見ていたりもしたのですが・・・・
もともと舞台の生理で書かれたものを、スクリーンにすんなり移植することじたい
かなり困難なことではあります。世界でも、舞台から映画への脚色で
上手くいったものはレアで・・・・私の知る限り「Boys In The Band」(邦題 真夜中のパーティ)ぐらいしか今は思いつきません。まだあるとは、思うのですが。
テネシー・ウィリアムズも人気のプレイライトだったので、複数映画化
されていますが、映像化の必然性を感じたのは「Suddnly Last Summer」(去年の夏、突然に)
だったでしょうか。
鄭さんは国籍を韓国に置く在日三世の作家であり、在日社会を舞台では描き続けていて、映画は
脚本と共に監督も手がけています。
両親役を演じた(韓国の俳優さんだと思います)お二人が秀逸でした。とりわけ
無口なお父さんの表情の多弁なこと。
なんでも、この映画が日本人貶めではないかとネットの一角で問題に
なっているそうですが・・・・
舞台作品を3作、映画を1作見た者の感想でいうと、鄭さんに意図した反日は
ありません。
舞台は特にそうでしたが、ご自身の体験したと思しき、熱い坩堝のような在日社会を
リアルに描いているだけのことで、そうすれば当然日本人から受けた差別やら、
いじめも現れるのですが、それは単にそういうことがあった、という情報に
過ぎず、それらを用いて鄭さんが意図的に反日プロパガンダを行っている
わけではありません。
鄭さん自身が本国から棄てられた「棄民」であるとの自覚もお持ちで、
よくあるように、一方的被害者の立ち位置で「日本を糾弾」するわけでもありません。
ただ、そうと理解はしていても映画には、日本人である私の耳に逆らうセリフも
皆無だったわけではありません。
たとえば、お父さんが片腕を失ったのは日本に無理やり戦場に連れて行かれ、と
なっているのですが、いわゆる戦時徴用は戦争末期の短期間であり、
日本人であった人たちに先行して赤紙が来ていたのであり、主に戦地に赴いていたのは
元々の日本人たちです。
それに日韓併合で、当時の彼らは日本人だったので何か受け身の犠牲者的に
描かれても、そこはちょっと違うかな、と感じるところです。
ただ、映画の中の人物の心情として叫ばれるので、それはとてもよく
解ります。
しかしながら、あの当時の日本軍の兵隊募集に群がっていたのは、朝鮮の男たちです。
競争率が数倍という状況で、日本が無理やり兵隊にした、というのは
もし事実ならレアケースだったかもしれません。
日本軍の兵隊になりたくて、血書まで送りつけたのが朴槿恵大統領の父上である
朴正煕・元大統領です。
あと、祖国に帰るに帰れなかった、というセリフが出てきますが、
帰れないということはありません。戦時中は「君が代丸」という
韓国を日本を結ぶ船があったし、戦後戦時徴用で日本に来た朝鮮の
人たちのうち、自らの意志で日本にとどまったのは、245人・・・・だったか、
とにかくわずかであり、無理やり引日本に引っ張って来られた、という
朝鮮の人々が、245名を遥かにオーバーして存在していたことは
奇妙です。つまり「強制連行」の嘘です。
映画の中の登場人物が「主観」で語ることなので、作品評として
セリフの内容を批判するのは筋違いですが、しかし現実とは
違うという意見は、映画評とは別に出し続けるべきでしょう。
とはいえ、映画では「焼き肉ドラゴン」という店ほか在日の人たちが
ひしめくエリアは日本の国有地であり、そこを不法占拠している、と
率直に語ります。
また、自国における済州島での大虐殺が原因で、帰るに帰れなかった、いわゆる
政治難民であった、という事実も映画は避けません。強制連行などではなく、
実体は済州島から逃げてきた人たちを日本が救い、いさせてあげ続けている、
というのが事実ですが、映画はそこも嘘はついていません。
ただ「祖国に帰っても、言葉も喋れない、仕事もない」と
言われても・・・・とは思います。それは日本のせいではないのだし。
帰るに帰れない、と自己都合のそれを正当化するための嘘が「強制連行」です。
帰ったところで「パンチョッパリ」半日本人として罵られ、差別される
現実も祖国にはあるわけです。
映画では北朝鮮に帰るカップルが描かれ、それっきりでその後の消息は
観客も知らないのですが、胸がつぶれる思いをしました。
この映画を、どこかで賞を貰った安倍内閣批判で、日本の貧困をあり得ないデフォルメで
汚く描いた、という悪評を保守からは唾棄されている映画と並べる人たちが
いて私は内容を知らないのですが、「焼肉ドラゴン」はかなり公平な視点で描かれています。
映画の私立中学におけるいじめについては、私は現場にいたことがないのであり得ただろう、と
は思いますが、私が通った中学には「金」という姓がわりにいて、しかし差別を
目撃したことはなく、それどころか足の速いキム少年は、学校の
ヒーローでした。これもまた、一つのレポートだと受け止めて頂けたら
幸いです。
いじめがあったとしても、一方に朝鮮の学生たちに拠る日本人への暴力沙汰が
あったので映画は映画として見ても、現実にあったことなかったことは我々
日本人がきちんと発信していかねばなりません。
文中の「降りみ降らずみ」は、降ったりやんだり、という意味です。
誤変換他、後ほど。