唐突な訃報だった。
萩原健一さんと仕事はご一緒したことはないのだが、
ご縁のある女優さんから、間接的に噂は聞いていた。
映画「約束」で共演した岸恵子さんからは、初対面の時、
スーツにネクタイで現れ、緊張した様子だったと好意的な
口ぶりだった。
自分が認めた先輩には、きちんと礼を尽くす人だったのだろう。
別れた後のいしだあゆみさんは、萩原さんが「事実婚であり、
籍は入れてなかった」とマスコミに語っていたそうで、
あゆみさんのご両親ともども怒っている、という話だった。
籍は入れていたのに、と。たぶん、次の女性への慮りで
嘘をついたのかなあ、という結論だったような気がするが
随分昔に交わした会話で記憶が曖昧である。
結婚している間、ご飯は撮影中の昼食でも必ず家に戻って食べる人だったので、あゆみさんは外出も出来ず、家でご飯を作っていたとも
聞いた。萩原さんがいい仕事にめぐりあい、高揚した表情で
帰宅すると俳優として嫉妬した、という率直な感想も聞いた。
役者同士のカップルは似たようなことかもしれない。
夫婦という関係以上に、男女という以前にお互い役者というライバルなのだ。
上手くいっているカップルはどちらかが、一線をきれいに引いた場合であろう。
今回の報道でも、あゆみさんとは結婚していたという
報道と、事実婚であったという報道と二種類が
混在している。他人にはどうでもよさそうなことだが
結婚していたご当人にしてみれば、面白からぬ
ことなのかも知れない。
そういえばあゆみさんとはしばらく話してない。が、
こんな時に電話するのは不謹慎だろう。
岸さんともご無沙汰続きだが、感性の合う方で
お会いすれば話ははずむ。岸さんが昔、メインを
務めていたトーク番組にお招き頂いたことが
あるが、余り話がはずんで面白いので一回の
オンエア予定が2度に分けての放送になったことが
ある。
私が印象に残っている萩原さんは、最初は助監督として
チームに入っていたが岸さんの相手役が降板、急遽
役者として出演することになったという「約束」での
いわくつきの年上の女性に恋する青年像だ。
他には「前略おふくろさま」。倉本聰さんの倉本節ともいうべき
特有の「間」を持つ寡黙なせりふを、自分のものにして
チャーミングだった。板前の役柄で、撮影に入る前に
包丁さばきなど、ちゃんと修行して臨んだのだという。
末尾ながら、萩原健一さんのご冥福を祈ります。