フランスのマクロン大統領については、昨日G20に先立って安倍総理と会談、イランの核開発を制限する2015年の核合意維持の重要性を共有した、ということと北朝鮮による拉致問題の早期解決に向けた連携に合意したという最新の報道を読んだくらいで、大統領について何か述べるほど知識を持たない。
私が興味を覚えるのは、その生涯を貫く年上の女性への恋である。
フランスで年上の女性相手の恋と言えば、「愛の讃歌」のエディット・ピアフとギリシャ人青年テオ・サラポのカップルが知られるが、その年齢差は27歳、マクロン大統領と夫人との年齢差は25歳である。
出会いはマクロンが高校生だった頃、夫人が仏語の教師だったのだが、マクロン氏は16歳で、この40歳の教師ブリジットに恋心を告白している。この時ブリジットは既婚者で3人の子供たちがいた。
上の子はマクロン少年と大して年が違わないという、シチュエーションであり、ドラマでもなかなかハッピーエンドには持っていけない。
しかし、長い歳月を経てついに二人は結ばれる。「あなたが何をしようと、僕はあなたと結婚する」と口説かれ続けたブリジットがその熱意と誠意にほだされた。G20の報道で、もしブリジット夫人が映るならメディアはこの逸話に触れるだろうか。トランプ大統領夫人のようにスポットライトが当たることはないかもしれなし。
もし大統領が夫人同伴なら私はたぶん、じっくり見る。
若々しいが夫人が80歳の時にマクロンは55歳という現実に直面することになるが、はや姿形は超越した間柄であろうから、世間的常識は余計なお世話というものであろう。
ブリジットには先夫との間に子がいて、孫も誕生しているがマクロンはその孫たちの面倒も見ているというから、単なる恋心はとうに越え二人にはもっと大きな愛が育まれているのだろう。
テオ・サラポとエディット・ピアフの結婚式の仲人役は稀代の大女優、マルレーネ・ディートリッヒであり、大歌手エディット・ピアフにふさわしい。
テオが結婚した時、エディットの財産狙いだと言われたが、その実エディットは当時、財産を使い果たしてアルコール依存症であった。
テオはエディットが息を引き取るまで付き添い、エディットが亡き後彼女の借金を一人で黙々と払い続け、払い終わると交通事故でエディットの後を追うようにこの世を旅立った。
パリ市街がそれまで交通渋滞に悩まされたことはなかったというが、エディットの死を悼むパリ市民がパリの街のあちこちに溢れ、交通が遮断されたという。この日、エディットの親友であったジャン・コクトーもまた死んだ。
終生男性と恋をしていた大詩人であった。
マクロン夫妻の生涯を貫く絆を垣間見つつ、以前から私のアンテナが察知するところ時代はゆるやかにと年齢も性差もないボーダレスな愛の時代へと移りつつあるのではなかろうか、ということだ。常識の矮小な枠を外しての、魂としての伴侶を求める人が徐々に増えて来るであろう。社会制度としての、種の保存としての結婚は主流で残しつつ、傍流がしかしいずれは大きな流れになるかもしれない。
美輪明宏さんが「愛の讃歌」を歌う時、エディットが時にステージに現れることがあるそうだ。「黒蜥蜴」を演じる時は三島由紀夫が。この人は女性と同性を共に愛する人だった。黒蜥蜴で明智を演じていた高嶋政宏くんが三島さんの姿を舞台の袖に見かけ、美輪さんにそう告げたら「今日は三島さんの命日だよ」と言ったという逸話を聞いた。
高嶋くんが男には珍しい霊的感受性が高いことは、付き合いのある私も承知している。お付き合い範疇にある方で言えば岩下志麻さんが、感性の強いタイプでご本人からそのたぐいの逸話を聞いたことがある。
G20は極めて政治的な駆け引きの場であるが、その背後に一つの長く続くロマンスがあることを知っていてもいいかもしれない。物書きとしては妻に去られた元夫の存在も気にかかるが、恋敵が一国の大統領に上り詰めた男であるなら、元夫も男として勲章を得たようなものであろう。
漠然とした勘でしかないが、再婚してそれなりに幸せな家庭を営んでいるのではあるまいか。